
渡り鳥は、見えない磁場をどうやって感じるの?
小さな鳥が長い旅で方角をつかむひみつは、目の中にあるのかな? コマドリのたんぱく質を調べた研究から、光と磁場のつながりを考えよう。

まず、ひとことで
ヨーロッパコマドリの目にあるクリプトクロム4というたんぱく質は、実験室では光を受けたときの反応が磁場で変わったよ。方角を感じる仕組みの有力な手がかりだけれど、鳥の目から脳への道すじまで証明したわけではないんだ。
夜の空に、道路標識はないけれど
遠くの土地まで飛んでいく渡り鳥。空には、交差点の看板も、地面に引いた道もないよね。それなのに、鳥は旅の向きをつかむことができる。どうしてだろう。太陽や星などに加えて、地球の磁場も手がかりになると考えられているんだ。磁場とは、磁石の働きが空間に広がっている状態のこと。目では直接見えないけれど、方位磁針を置くと、その向きに応じて針が動くよ。
でも、鳥が小さな方位磁針を持って飛んでいるわけではない。体のどこが、見えない磁場の情報を受け取るのかな。この記事では、2021年に科学雑誌Natureに発表されたヨーロッパコマドリの研究を紹介するよ。実験で確かめた事実と、そこから考えられる仕組みを、別々の箱に入れながら読んでみよう。
候補になったのは、目の中のたんぱく質
手がかりの一つは、鳥の磁気コンパスが光と関係することなんだ。研究者が注目したのは、目の網膜にあるクリプトクロムというたんぱく質の仲間。網膜は、目の奥で光の情報を受け取る組織だよ。たんぱく質はアミノ酸という部品がつながった分子で、体の中でいろいろな仕事をしている。この研究では、その中のクリプトクロム4を調べたんだ。
青い光を受けると、この分子の中で電子の移動が起こると考えられているよ。電子は、物質をつくる原子に関わる、とても小さな粒子。その移動で、電子が対になっていない状態をもつ二つの相手が生まれる。これをラジカル対というんだ。難しい名前だけれど、ここでは『光で生まれ、短い間だけ存在する反応の組』と覚えよう。目の中に金属の針が回るという説明とは違うんだね。
分子の反応を単純化した模式図。図形は実際の分子の形ではなく、電子のスピンや移動を実物の動きとして描いたものではないよ。点線の先は未解明の道すじだよ。
出典資料に基づきEggplanetが作成した模式図光と磁場が、反応の進み方に関わる?
電子には、スピンという量子的な性質があるよ。名前から小さなこまが回る姿を思い浮かべたくなるけれど、本当に球がくるくる回っていると決めつけると、正しく説明できない。スピンを含むラジカル対の状態と、磁場との関係が、反応の進み方に影響するというのが、研究で検討されている考え方なんだ。光を受けることと、磁場に応じて反応が変わることが、ここでつながるよ。
たとえば、分かれ道へ来た人の流れが、道の条件で変わる様子を想像してみて。人が増えたり減ったりする道があれば、その違いを手がかりに条件の変化を知れるよね。ただし、分子は人のように行き先を選ばない。このたとえは『反応の進む割合が情報になりうる』ことを考えるためのものだよ。鳥が磁場の線をしま模様として見ている、と確認されたわけでもないんだ。
生きた鳥ではなく、取り出した分子を調べた
研究チームは、コマドリのクリプトクロム4をつくる遺伝情報を使い、細菌の培養でたんぱく質を用意した。その分子を実験室で調べ、光を受けたあとの反応が磁場に対して変化することを確かめたんだ。鳥が飛ぶ向きを直接測る実験とは、見ているものが違うよ。この研究の主役は、鳥から切り離したたんぱく質と、その化学反応なんだね。
さらに、ハトやニワトリの同じ種類のたんぱく質とも比較した。研究チームの報告では、コマドリのものの方が磁場に敏感だったよ。同じ実験の中で対象をくらべると、『たんぱく質なら何でも同じなのかな』という問いを調べられる。ただし、この結果だけで、あらゆる鳥の旅の上手さを順位づけることはできない。分子の比較と、動物全体の能力の比較は別なんだ。
部品を変えると、何が分かるの?
研究者は、たんぱく質の部品にも注目したよ。電子の移動に関わると考えられるトリプトファンというアミノ酸を、別の部品に置き換えた種類をつくり、反応を調べたんだ。いつもの分子と、特定の場所を変えた分子をくらべれば、その場所がどんな仕事に関わるかを絞り込める。部品を一つ変えて、全体の動きがどう変わるかを確かめる考え方だね。
これは『目の中にあるから、きっとコンパスだ』と考えるだけより、一歩進んだ調べ方なんだ。ただ、置き換えによって分子の形やほかの働きも変わる可能性がある。変化が見えたら理由を慎重に調べる必要があるよ。予想を立て、条件を変えて確かめ、説明をしぼる。科学の面白さは、ひらめきだけでなく、その説明を試せる形にするところにもあるんだ。
『分子が反応した』と『鳥が使った』の間
大切なのは、実験室で使った磁場が地球の磁場より強かったことだよ。強い条件で変化が見えたからといって、自然の弱い条件でも同じように働くとは限らない。また、生きた目の中では、分子の並び方や周囲のたんぱく質が影響するかもしれない。取り出した分子での結果を、そのまま生き物全体へ広げないことが大事なんだ。
もし分子の反応が方角の情報になるなら、その違いは目の細胞に伝わり、神経の信号につながり、鳥の行動に役立つはずだよね。ところが、2021年の実験は、その道すじ全部を確かめたものではない。『磁場で反応が変わる分子を見つけた』という結果と、『その分子が鳥の方位センサーだと証明した』という主張は、同じではないんだ。二つを分けると、研究の価値も限界も見えてくるよ。
2021年の研究チームの説明に基づく整理。磁場の強さの数値や反応量を描いた実測グラフではないよ。先へ進む矢印は、証明済みの因果関係ではなく次に調べる段階を示すよ。
出典資料に基づきEggplanetが作成した模式図まだつながっていない道を探す
2025年11月にオックスフォード大学が発表した研究計画でも、光を受けた分子の変化から動物の反応へ、情報がどうつながるかが課題として挙げられているよ。この発表は、新しい仕組みの証明そのものではなく、これから何を調べるかを示したもの。この記事で確認したのは、2021年の研究に関する大学の解説と論文の書誌情報、そしてこの研究計画なんだ。論文全文を読めたものとして紹介してはいないよ。
分からない場所があるのは、研究が無意味ということではない。暗い道で、一つ先の街灯がついたようなものだよ。次は、その先まで道が続いているかを調べられる。鳥が方角を感じること、候補の分子が磁場で反応を変えること、その情報が脳に届くこと。それぞれの問いに必要な証拠をそろえることで、説明は少しずつ確かになるんだ。
どっとと考えよう:コンパスは住所を教える?
紙に、出発点と目的地を描いてみよう。そこへ『こちらが北』という矢印を一本足す。それだけで、今どこにいるか、あとどれくらい飛べばいいかまで分かるかな。方角の情報は役に立つけれど、それだけで地図や住所になるわけではないよね。渡り鳥の旅を考えるときも、進む向きの手がかりと、場所の手がかりを分けると、問いがはっきりするよ。
最後に、紙へ『確かめたこと』『考えられること』『次に調べたいこと』の三つの欄をつくろう。実験室の分子に磁場への反応があったことは、どこに入るかな。鳥が使う仕組みを全部説明できた、という文は置けるかな。動物を捕まえたり、鳥に磁石を近づけたりする必要はないよ。資料と紙だけでも、研究の主張をていねいに読み分ける練習ができるんだ。

ことばのメモ
- 磁場
- 磁石の働きが空間に広がっている状態。場所によって強さや向きがあるよ。
- 網膜
- 目の奥にあり、光の情報を受け取る組織。
- クリプトクロム4
- 光に応じて反応するたんぱく質の一種。鳥の磁気感覚を担う候補として研究されているよ。
- ラジカル対
- 対になっていない電子をもつ二つの相手が、組として生まれた状態。反応と磁場の関係が研究されているんだ。
- スピン
- 電子などがもつ量子的な性質。小さな球が回る姿そのものでは説明できないよ。
もとになった資料・もっと知りたい人へ
下記の資料をもとに、説明と考える問題を独自に構成しています。外部資料には英語のページもあります。どっとの画像は案内用のイラストで、観測写真や科学的な図ではありません。
- オックスフォード大学:How birds sense the magnetic field of the Earth(2021年の研究解説)
- Corpus Christi College:渡り鳥の磁気感覚とクリプトクロムの実験(2021年)
- Oxford Quantum Institute:Xuほか、Nature掲載論文の書誌情報(2021年)
- オックスフォード大学:New project aims to reveal nature’s quantum compass(2025年の研究計画)
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