
コウイカは、好きなえさのために待てるの?
今すぐ食べられるえさと、待つと取れる大好物。コウイカはどちらを選ぶかな。2021年の実験から、行動で心の働きを調べる工夫を見てみよう。

まず、ひとことで
訓練を受けた6匹のコウイカは、すぐ取れるえさを前にしながら、好きなえさのために待てたよ。待てる長さには個体差があった。ただし、人と同じ気持ちで未来を考えていると証明されたわけではないんだ。
食べられるのに、すぐには食べない
目の前に、今すぐ食べられるものがある。でも、少し待つと、もっと好きなものを取れる。こんなとき、きみならどうするかな。海の生きもののコウイカにも、似た選択をしてもらった研究があるよ。動かない姿を見ただけでは、待っているのか、食欲がないのかは分からない。そこで研究者は、選べる条件を工夫して行動を比べたんだ。
紹介するのは、シュネルさんたちが2021年3月3日に公表した、査読済みの論文だよ。査読とは、分野の研究者が論文を検討する手続きのこと。最新ニュースではなく、実験の考え方が面白い研究として読むね。ここでは、大学の公開資料にある受理原稿の方法・結果・考察と、実験を行った海洋生物学研究所の解説をもとに、何を確かめたかをたどっていこう。
まず「何が好きか」と、扉の約束を調べる
すべての訓練と試験を終えたのは、生後9か月のヨーロッパコウイカ、学名セピア・オフィシナリスの6匹だよ。研究者は先にえさの好みを調べた。この6匹では、生きた小さなエビが、生の大きなエビの切り身より好まれたんだ。人間が見てごちそうだと思うものを決めるのではなく、その個体が何を選ぶかを確かめておくことが大切だね。
次に、透明な扉のある部屋と、形の違う目印を使って訓練したよ。目印によって「すぐ取れる」「あとで取れる」「扉が開いても透明な板が残り、取れない」という条件を知らせたんだ。どの形をどの条件にするかは、個体によって変えた。目印を理解する準備があって初めて、その後の選び方を、手がかりのない偶然と区別しやすくなるんだよ。
課題の条件を比べる模式図。どちらの条件でも、切り身を選ぶことができるよ。片方の部屋に近づくと、もう片方のえさは取り除かれる。水槽の配置や動物の移動経路、縮尺は表していないよ。
出典資料に基づきEggplanetが作成した模式図待つ途中でも、今のえさを選べる
本番では、二つの部屋に違うえさを入れたよ。一方はすぐに取れる切り身。もう一方は、待つと取れる、より好きな生きたエビだ。待つ時間は10秒から始めて、10秒ずつ長くした。コウイカは、待つのを途中でやめて切り身を選ぶこともできたんだ。片方の部屋を選んで近づくと、もう片方のえさは取り除かれるという決まりだったよ。
ここが「待つ」という行動を調べる工夫だよ。最初に一度、あとでもらう方を選ばせるだけなら、その後に気が変わるかは測れない。今回は、すぐ取れる方が目の前にある間、選ばずに待ち続けられるかも調べたんだ。このように、今すぐ得られるものを選ばず、より好む結果のために行動を抑えることを、この研究では自己制御の課題として扱っているよ。
待っても取れない場合を、並べて比べる
ただし、切り身を食べなかっただけで、好きなえさのために待ったと決めるのは早いね。単に動きたくない、あるいは、いつも待つように覚えた可能性もある。そこで、より好きなエビが見えるけれど、待っても透明な板に阻まれて取れない条件も用意した。このように、説明を確かめるための比較相手を置く実験を、対照実験というんだ。
取れる場合には待つ一方、取れない場合には待つのをやめて切り身を食べる。この違いが見られたことは、何も食べる気がないという説明だけでは合わないね。図では、二つの条件の違いを言葉のカードで整理したよ。水槽の正確な形や、動いた道筋を再現した図ではない。比較する条件のどこを変えたかが、いちばんの読みどころなんだ。
50〜130秒は、全員が同じ記録という意味ではない
論文では、最大の待ち時間が個体によって50〜130秒の範囲だったと報告されているよ。6匹全員が130秒待ったという意味ではないし、毎回必ず最後まで待てたわけでもない。待つ時間が長くなるにつれ、すぐ取れる方を選ぶことが増えた。数字を見るときは、平均なのか、個体ごとの範囲なのか、どんな課題で得た記録なのかを一緒に読もう。
別の課題では、明るさの違う目印のどちらにえさが対応するかを覚えてもらい、その対応を途中で入れ替えた。これを逆転学習というよ。待つ課題で長く待てる個体ほど、この学習課題でも少ない試行で基準に達する関係が見られたんだ。ただし、これは二つの測定結果の関係だよ。長く待たせれば学習能力が上がる、という原因と結果を調べた実験ではないんだ。
行動が似ていても、心の中まで同じかな
「あとで好きなエビを食べよう」と、人間の言葉で考えていたのかな。それは、この実験から直接は分からないよ。研究者が記録できるのは、選んだえさや、待った時間などの行動だ。目印とえさの関係を覚える働きが、結果にどう関わったかも引き続き調べる必要がある。人と似た結果が出ることと、頭の中で同じ仕組みを使うことは、分けて考えるんだ。
研究者は、隠れてじっと過ごし、よい機会にえさを捕る暮らしが、この能力の進化と関わる可能性を挙げている。でも、これは考えられる説明で、この実験が進化の歴史を直接証明したわけではないよ。実際の海での選択や、ほかの種類にも同じ傾向があるかは、別の問いだね。今回の6匹から、すべてのイカの性質を一つに決めることもできないんだ。
論文の結果と、その結果だけでは決められない説明を分けた整理図。6匹の訓練を受けた個体で得た結果だよ。相関から原因を決めたり、すべてのイカへ広げたりはできないんだ。
出典資料に基づきEggplanetが作成した模式図小さな研究を、次の問いにつなげる
6匹の研究には、個体の違いを細かく追えるよさがある一方、広く当てはまるかを確かめるには限りがある。訓練や水槽の条件が違えば、結果も変わるかもしれない。ほかの個体や課題でも確かめて、どこまで同じことが言えるかを調べていく必要があるんだ。論文の結論を読むときは、「どの生きものに、どんな準備をして、何を選ばせたか」まで戻ってみよう。
また、待つ時間だけを並べて、生きものの賢さ全体の順位にするのも難しいよ。好みや空腹、えさを取る方法、実験の決まりは、選び方に関わる。この研究の面白さは、長い記録を競うことだけではない。今すぐのえさがあっても、条件に応じて行動を変えられるかという問いを、人と大きく違う生きものにも調べられたことなんだね。
どっとと考えよう:別の説明を、どう確かめる?
紙に「すぐ取れる切り身」「待つと取れる好きなエビ」「待っても取れない好きなエビ」のカードを描いてみよう。二つずつ組み合わせて、何が同じで、何が違うかを書き足してね。いつも両方を取れてしまう決まりに変えると、片方を見送って待つことを、同じように測れるかな。実際の動物にえさを我慢させず、紙の上で実験の決まりを考えてみよう。
最後に、二つ目の図のように、「観察したこと」と「まだ確かめたいこと」を別の欄へ書こう。「条件によって待ち方が変わった」はどちらかな。「人と同じように未来を思い浮かべた」はどうだろう。科学は、驚く結果に名前を付けて終わるのではないよ。ほかの説明で同じ結果が出ないかを考え、比べ方を工夫する。その積み重ねで、生きものの見えない働きへ少しずつ近づくんだ。

ことばのメモ
- 自己制御
- 今すぐの選択を抑え、より好む結果のために待つなどの行動を調整する働き。ここでは実験課題で調べているよ。
- 対照実験
- 確かめたい条件を変えた比較相手を置き、結果の違いを調べる実験。
- 逆転学習
- 覚えた手がかりと報酬の対応を入れ替え、新しい対応を学ぶ課題。
- 査読
- 分野の研究者が、投稿された論文を検討する手続き。
- 相関
- 二つの測定値に関係が見られること。片方がもう片方の原因だと、それだけで分かるわけではないよ。
もとになった資料・もっと知りたい人へ
下記の資料をもとに、説明と考える問題を独自に構成しています。外部資料には英語のページもあります。どっとの画像は案内用のイラストで、観測写真や科学的な図ではありません。
- ケンブリッジ大学Apollo:Schnellほか(2021)受理原稿・全文(方法、結果、考察)
- MBL:Fast-Learning Cuttlefish Pass the Snacking Test(2021年3月3日、実験と進化仮説の解説)
- PMC:Cuttlefish exert self-control in a delay of gratification task(掲載論文、要旨と書誌情報)
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